西本研究室

地中埋設物探査に関する研究

 現在, 世界の紛争地域に埋設されたまま放置されている未処理地雷の数は約7,000万個にのぼるといわれています. 地雷による被害は, およそ22分に1人の割合で起こっており, その被害の大きさや非人道性から一刻も早い地雷除去が強く求められています。

 しかし, 地中に埋設された地雷を検出及び識別する技術は未だ確立されておらず, 従来の金属製地雷に対しては有効であった金属探知機も, プラスチック製などの非金属地雷に対する検知が極めて困難であるという欠点を持っています. このため, 地雷探査技術として, 非金属地雷にも使用可能な地中探査レーダ(Ground Penetrating Radar:GPR)技術の研究・開発が進められています。

 地中を伝搬する電磁波は, 土壌中に誘電率の異なる物質が存在すると反射を起こす性質があり, そのため埋設物の材料物質と土壌との誘電率の違いを利用して埋設物の存在を検知することが可能となります. 地中レーダはこの原理に基づいたものであり, 地表面上に置かれた送信アンテナから地中に向けて電磁波パルスを放射し, 同じく地表面上に置かれた受信アンテナで反射波を測定することにより実現されます. 送信アンテナから放射された電磁波は地層境界面や埋設物表面などの媒質の誘電率が異なる境界で反射され, 受信アンテナで捉えられます. この反射波を測定することで地中に埋設物があるかを検知します。

 地中レーダを用いた地雷探査でしばしば問題とされるのは, 地雷の埋設深度が浅いために, 地雷からの反射波, 地表面からの反射波, 送受信アンテナ間で空気中を伝搬する直達波が時間的に重なってしまうことです. また, 地表面反射波をはじめ, 石や木の根, 金属片などのターゲット以外の不要散乱体からの反射波はクラッタと呼ばれ, 誤った検出を導く恐れがあります. 他にも様々な問題が地雷検出の妨げになっています。

地中レーダを用いた地雷探査の流れ

 当研究室では, これらの問題に対し有効な地中レーダシステム実現のため, 超広帯域ビバルディアンテナを用いた地中レーダシステムの構築, 模擬地雷を用いた実験とFDTD法(Finite Difference Time Domain method:時間領域差分法)を用いたシミュレーションによって研究を行っています. また, クラッタ除去やターゲットの抽出, 識別に関して, 独立成分分析やニューラルネットワーク, マッチドフィルタなどによる信号処理法や地表面形状の推定法の開発について研究しています。

当研究室の地中レーダシステム(室内実験向け構成)

当研究室で使用している模擬地雷(中国製Type72地雷を模擬)

コンクリート内部等の非破壊検査に関する研究

 非破壊検査 (Nondestructive Testing, NDT)は, 工業製品, 配管, 建造物などの内部の欠陥などを「破壊することなく」調査する方法です. 例えば,コンクリート内部の欠陥や亀裂,腐食を発見する非破壊検査技術は,土木建築の分野における代表的研究課題です。

 高度成長期に建設された建造物の多くがこれから耐用年数を迎えることになり,また,近年,世界的に多発の傾向を呈している大規模地震(新潟中越や福岡西方沖地震,海外ではスマトラ沖地震等)の影響によるコンクリート建造物の強度低下は,実際の耐用年数を大幅に縮小してしまうことが予想されます.また,外見的には異常が全く確認できない場合でも地震による内部損傷やそれに伴う強度低下の可能性は高く,耐用年数以内の建造物が突然倒壊することも考えられます.このため,コンクリート建造物内を正確に,かつ高速に検査するための非破壊技術の開発は今後ますます重要性をもってきます。

 当研究室では,電波と弾性波を利用した高速で正確なコンクリート内部の非破壊検査手法の開発について研究しています。

偏波情報を用いたマイクロ波リモートセンシングに関する研究

マイクロ波を用いたリモートセンシング技術では,レーダの反射電力だけでなく,偏波情報(レーダ・ポーラリメトリ)を利用することができます,単一偏波の反射電力をのみを利用していた従来のレーダセンサに比べて,ポーラリメトリック・レーダでは観測対象の散乱メカニズムを詳しく調べることができます.代表的な散乱メカニズムの分類として,表面散乱,2回散乱,体積散乱,ヘリックス散乱などに分解することができます.ターゲット(観測対象)によってこれらの偏波の状態が変化するため,受信信号の偏波の情報を利用することにより,地球上の状態をより詳細に調べることができます.このため,ポーラリメトリック・レーダの研究が,現在盛んに研究が行われています.当研究室では,ポーラリメトリック・レーダのデータを用いた地表面の分類について研究を行っています.

不規則面の計測・散乱現象の解析とその応用に関する研究

 音波・光波・電波などの波動散乱現象は対象物体の表面や内部の状態によって特性が大きく変化します.この性質を利用して離れた対象物体の性質を計測する方法の代表例がリモートセンシング技術です.マイクロ波を用いたセンシングでは,比較的広域における平均的な土壌の統計量が推定されるため,探査箇所付近の局所的な土壌の性質を調べるには直接計測する必要があります.一方,情報通信分野では,光通信技術の進展により様々な高性能光デバイスが数多く開発されています.光の反射・散乱を利用した光デバイスでは,表面の僅かな不規則性がデバイスの特性に大きな影響を及ぼすため,実際に不規則表面を計測することにより粗さを推定し,特性に及ぼす影響を評価することが重要となっています.

 このような波動センシング技術の応用分野では,不規則面の計測データから粗さの統計量を推定し,散乱現象の影響を明確にすることが重要となります.当研究室では,粗面の計測と粗さの推定法,および粗面による散乱現象について研究しています.

波動散乱応答の時間-周波数解析に関する研究

 波動散乱応答からターゲットの媒質定数や構造を推定するためには,応答波形に含まれている物体の情報を正確に,かつ,できるだけ多く引き出すための信号処理技術が必要となります.通常,時間領域と周波数領域で信号解析を行うのが一般的ですが,周波数領域でスペクトル解析を行いながら,同時に変動の時間的推移も解析する「時間−周波数解析」も有力な信号解析法です.時間−周波数解析では,時間軸上で局所周波数成分を分析することができるため,時間領域解析あるいは周波数領域解析に比べて,より多くの情報抽出が可能となります.本研究室では,ウェーブレット変換や短時間フーリエ変換などの時間−周波数解析の手法を用いたターゲット識別や非破壊検査への応用について研究しています.

視覚障害者向け障害物検知装置の開発

 現在,日本における視覚障害者は約30万人といわれています. 人間が外界から得る情報の多くが視覚によるものであるため, この機能を失っていると日常生活, 社会生活において多くの不便や不利益を被ることになります. このため, 視覚障害は種々ある障害の中でも情報収集という点において最も深刻なものであるといえます. 視覚支援システムに関する社会的要望は大きく, 視覚障害者が自由に行動できるようにすること, つまり単独でも安全に歩行できるような歩行支援が必要です。

 そこで, センサによる障害物の検知という方法が考えられています. 現在, 障害物の検知に用いる距離センサとしてはさまざまな方法が考えられていますが, 当研究室では超音波センサ, 赤外線センサについて研究を行っています。

 超音波センサとは送波器により超音波を対象物に向け発信し, その反射波を受信器で受信することにより対象物の有無や対象物までの距離を検出する機器のことです. 具体的には, 送信器から発信された超音波が対象物で反射して受信器に帰ってくるまでに要した時間と音速の関係を演算することで, センサから対象物までの距離を算出します. また, 送波器と受波器間を通過する物体によって生じる音波の減衰, または遮断を検出することにより対象物の有無を検出する機器もあります. 超音波センサは伝搬速度が光に比べて遅いので近距離の測定に適しているという特徴があります. 当研究室では超音波センサ実現のための基礎研究として, 音波の伝搬特性を解析するため, 電磁波伝搬の数値解析に用いられているFDTD法(Finite Difference Time Domain method:時間領域差分法)を音波に応用し, これを用いたシミュレーションによる解析を行っています 。

FDTD法を用いた音波伝搬のシミュレーション(円筒波)

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赤外線センサとは, 赤外領域の光を受光し電気信号に変換して, 必要な情報を取り出して応用する技術です. 赤外線センサは動作原理により2種に大別することができます. 1つは熱型赤外線センサで, もう1つは量子型赤外線センサです. 熱型赤外線センサは赤外線を熱に変換し, その熱を電気量に変換するセンサです. 熱型赤外線センサは一般に感度, 応答速度が低いが, 安価で使いやすいという特徴があります. 量子型赤外線センサは, フォトンを吸収しキャリアを励起することによって直接赤外線を検出するセンサで, 検出感度が高く, 応答速度が速いなどの特徴をもっています. 当研究室では量子型赤外線センサの一種であるPSD(Position Sensitive Device)センサを用いて測定実験を行い, 障害物の検知が可能か, また視覚障害者が足首にセンサを装着した場合を考慮した場合などについて評価, 検討を行っています。

足首にセンサをつけた場合を考慮した実験の模式図
(写真は本研究で用いるPSD センサ)

電磁波を用いた車両識別の技術開発

準備中

波動散乱問題の高速解法の関する研究

準備中